森のフェスタ所感

 先日尼崎でやっている『森のフェスタ』というイベントに参加してきた。
 尼崎とはいっても端の端、海に近く、車で店から40分と遠かったのでお客さんにはあまり声をかけなかった。
 カレーはもちろん出したのだけれど、今回のメインは一緒に出すドリンクだった。 

  今回は最近ウチで手伝いをしてくれているしまちゃんにお手伝ってもらった。
 しまちゃんは現在転職活動中とで少し前から時間ある時だけウチのお手伝いをしてくれていている。
「仕事決まったら急に来れなくなるかもしれないので」とタダで働いてくれてたのだけれど、あんまりにも動きがいいので流石に気が引けて「バイト代出すよ」と言ったのだけれど、断られた。

 このままではイカンという事で一計を案じた。

 「しまちゃん、お店ごっこをしましょう」

 と声をかけるとしまちゃんは

 「?」

 という顔をされた。

 
  アメリカの子供のレモネード売りみたいなものを思いつき、今回のイベントで、しまちゃんにはチャイを売ってもらう事にした。
  もちろんチャイなんて売った事ないので、基本的なチャイの作り方(ネパール人に教わったレシピ、濃い)
  を伝え、チャイを作れるようになってもらい、容器や茶葉、必要な備品は全て自分が揃える。
 原価の計算をしてもらったりPOPを作って販売価格も決めてもらう。
 自分は隣でいつも通りカレーを売るので、何か当日困った事があったらヘルプする。
  その日一日チャイを売ってもらい、売上から材料費を引いた利益分をバイト代として取ってもらおう。
  雇われて働いた労働に対しての支払いではなくて、商材を売ってその利益を渡すという払い方だ。バイト代を受け取ってくれないのならゲーム感覚でチャイを売ってもらおうという計画だ。

  しまちゃんとは知り合って2年くらい経つ。前の職場がお店の近くだったので時々食べにきてくれていた。
 仕事を辞める時にえらい落ち込んでいて元気がなく、ウチの常連さんはみんな優しいので励ましてくれていた。
 転職活動中にお手伝いしてくれている時も次の仕事を早く見つけようと焦っていた。
  自分も経験あるからわかるんだけれど、仕事しないとお金ばっかり減っていくし、書類審査から面接、
 結果が届くまで時間がかかってかといって旅行する程の時間も気持ちのゆとりもなくてどんどん視野が狭くなっていく。
 徐々に焦りだして「お金稼げたら何でもいい」と思って見つけた会社は「お金稼げたら何でもいい」と思っている奴らが集まってくるし、「働けたら何でもいい」と思っていると似たような価値観のヤツが寄って来るのであんまりいい人間関係を構築できた記憶がなかった。
 転職活動しているしまちゃんを見ていると何か自分の価値を叩き売っているように見えた。

 これじゃあ転職サイトの思うつぼじゃないか。

 「生活今すぐ立ち行かなくなる訳じゃなかったら、焦らなくてもいいんちゃう?もっとこれからどう生きてくかとか考える期間にした方がいいと思うよ」

 ちょうどその時期にこのイベントの話が来たので一緒に出る事にしたのだった。
 転職活動中に、雇用関係以外のお金の稼ぎ方、お金との距離を見直すのもいい経験になるのではないか。
 これまで恐らくこういうお金の稼ぎ方というのはあまり経験した事ないだろうと思うので、転職サイトへの異議申し立てであり、リクルートへのアンチテーゼだ。

  商品になるチャイは作り方を教えたのだけれどしまちゃんはそこからいろいろ工夫して試作を繰り返していた。
 結果的に自分は作った事のないミルクを入れないストレートティーのチャイを編み出した。正直イベント出店はお店に比べるとどうしてもクオリティが落ちてしまうので「だいたいでいいよ」とは伝えていたが、真面目に取り組む姿勢は背筋の伸びる想いだった。

  当日は前日に比べて7℃も気温が下がって少し肌寒かった。しかも海の近くで風も強い。
  おまけにアクセスも悪く、最寄りの阪神電車から1時間に1本しか出てないバスに乗らないといけないので車持ってない人はまず来れない。急に気温が下がるとあまり人が動かなくなる印象だったのだけれど、すごい人が来てくれ、カレーは13過ぎに完売した。

  チャイはだいたい読み通りの数が売れた。
 驚くべきはしまちゃんの友達や知り合いがめっちゃ来たのだった。しまちゃんは尼崎に住んでいるので友達や知り合いが多い。数日前までは
 「知り合いには声かけたんですけど、何人か来てくれそうです」

 わざわざ友達に声かけてくれてえらいなーと思いながら

 「まーアクセス悪いから難しいよねー」とその時は返したのだけれど、
 どうやら声かけた人の大半が来てくれたようだった。

  明らかにみんなしまちゃんが目的でわざわざ来てくれた感じだったので、きっとこれまでの行いが良かったに違いなくみんなからとても愛されているようだった。


  カレーを売り切って、やる事もなく、しまちゃんを取り巻く人達を見ていると、チャイもお金も、もはやコミュ二ケーションツールでしかなく、普段はおごそかに見える様子のいい紳士淑女の描かれた紙切れを、香りのいい甘い液体と交換するだけの行為でしかなかった。
 転職活動中に自信なくうなだれて常連さんにあの手この手で励まされていたのを思いだした。

 みんなが伝えたかった事を一言で言えば

 「しまちゃんには価値あるぞ~!」

 という事だった。

  落ち込んでいる時は優しい言葉も届かない事もあるが、久しぶりに会う友達に囲まれて楽しそうだった。

「届け~!」っと想ったのだけれど、どうだろうか。

 しまちゃんは仕事が決まって来月から新しい職場で働き始める。

 この日が何か心に残る体験なってくれればうれしい。

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