グラセンで会いましょう
少し前に自分の店がマッチングアプリの待ち合わせ場所に使われている事に気が付いた。
以前会社の同僚風の男女が入って来た事があり、年上の男性と女性。お互い敬語で話をしていて最初はてっきり会社の先輩、後輩の関係なのかなと思って気にしていなかったんだけれど、カレーを作っている間に話声が入って来る。
よく見るとどこかよそよそしい。仕事や同僚の話は全くしておらず、出身地や部活、兄弟の話などをしておらずはたと気づいたのだった。
(おお!これがマッチングアプリか)
てっきりマッチングアプリで最初に会ってどこか食べに行くのは居酒屋とかもうちょっとロケーションのいいお店かと思っていたのだけれど、以前マッチングアプリをよく使っていた女性のお客さんの話を聞くと 「そんな事ないですよ、お酒飲めなかったりする人もいるし、お互いスパイスカレーに興味持ってたらこのお店とかちょうどいいと思いますよ。」
はー、そんなものなのか。
話を聞いているとマッチングアプリはどこか就活みたいな印象を受けた。アプリ上で気に入った人がいたら実際会う段階に入る。
これが書類審査みたいなもので、次に実際に会って食事したりして相手と話したりして、(これが2次面接や3次面接)
2,3回会ってお互い好意を持っていたらお付き合いする流れらしい。
いい人が見つかなければ実際にお付き合いするまで時間やお金もかかるので、確かに毎回飲みに行ったり豪華な食事をしていたらお金がいくらあっても足りなくなる。
フランチャイズよりはいい個人店でリーズナブルなウチみたいな店はおあつらえ向きらしい。
ウチに来るお客さんでRちゃんという子がいる。
元々知り合いに紹介されて来てくれた子で職場が豊中なのだけれど、家が最近三国に引っ越してきたので時々来てくれる。
少し前からRちゃんはマッチングアプリをやっていて、なかなかうまくいかないらしい。その日ちょうどRちゃんの隣に座っていたのがウチのカレーの写真を撮ってくれたチカさんという人でチカさんは少し前にフリーランスになったのだった。
「最近どんな仕事をしているの?」という話を聞くとちょうどマッチングアプリのプロフィール写真を撮っているとの事だった。
何枚も撮ってプロフィール欄も目を通していると共通する失敗ポイントが浮かび上がってくるらしく、その場でRちゃんのコンサルが始まった。
Rちゃんは結婚を前提にお付き合いを考えていて「真剣に~」みたいな事を書いていたそうなのだが
「文章が重い」
と一刀両断。
趣味はスポーツ鑑賞からサッカー観戦、野球観戦に変更するよう求められた。男はサッカー観戦と野球観戦が好きな人が多いとの事で狭め、また、Rちゃんはトレイルランをするのでやっぱり趣味をマラソンからトレイルランに変更した。絞っていった方がいいとの事だった。逆に男性は「スターウォーズが好き」だったら趣味は映画鑑賞。薄めて浅く書いた方がいいそうだ。
このようないくつかの改善点を見つけRちゃんはちょっとやる気になっていた。
自分も何か協力できないかと年頃の良さそうなお客さんにも声かけてみる事を約束し、お店を後にした。
幸いウチには20代後半の若い単身の男性のお客さんがちょいちょい来る。
いかにも一人やもめといった感じでスーツ姿で平日の夜に来るお客さんは仕事に追われて恋愛どころではないといった印象がある。
Rちゃんは真剣に交際相手を探しているので、極力遊んでなさそうで、誠実そうなお客さんに声をかけてみると、案外遠距離恋愛している人が多く
「いなさそうな空気出しといて何やねん」
と店主からグチられるのであった。
ひと月くらい経ち再びRちゃんがお店に来てマッチングアプリの話を聞くのだが表情が冴えなかった。
「もう疲れました・・・」
との事だった。アプリ上でのやりとりの時点で就職活動よろしく「何やってんだろ?」となって疲れてしまったそうだ。
お客さんにもめぼしいのがいなかった事を伝えた。その日は隣に常連さんのYさんが座っていた。Yさんは社員を多く抱える会社の役員をされているので
「部下で誰かいいヤツいません?」
と声をかけてみた。かくかくしかじかと事情を説明し、Rちゃんの趣味がマラソンだったので
「部下で誰か足の速いヤツいませんかね?」と聞くと
「足速いヤツならいるよ」
という事で声をかけてみてもらえることになった。
聞けばRちゃんはマラソンがものすごく速い事がわかり、フルマラソンで3時間2分。
もちろん実業団とかはもっと速いそうなのだけれど、高校ならインターハイ出れるくらいのイメージだそうだ。
後日YさんのからOKの返事をもらった。
紹介してもらう予定のS君はRちゃんよりも4つ歳上。 先にYさんとF君の二人にお店に来てもらい、紹介したい女性がいるという話をした。スラっとした長身の好青年でRちゃんよりも更に足が速くて何とフルマラソンを2時間45分で走るのだ。部下を紹介するくらいなので、Yさんなりにフィルターをかけたに違いなくきっと仕事も出来るのだろう。
一通り説明し終えると
「いいですよ」
と軽く返事がもらえた。ただ、一つ気になる事があるそうで、何でもマラソンのコミュニティーも狭い世界だそうで、そんなに速く走る女子の市民ランナーなら多少は有名に違いなく、知り合いの知り合いで繋がるかもしれないけれどそれでもいいか?との事だった。
後日RちゃんにOKの返事をもらいマッチングの日取りを決め、先日顔合わせをした。
とりあえずの顔合わせだったので、営業時間外や貸し切りみたいな特別な事はせず、通常営業の夕方に来てもらった。
YさんとS君が一緒に来てRちゃんはウチで仲良くなった年上の常連のYちゃんと一緒に店に来て、ウチの常連さんに挟まれる感じで二人は座った。
ファーストコンタクトは微妙な空気になりやすいので、普段自分が初見のお客さんが来た時にそうするように気になった話や、やんわりとお互い知りたいだろうなぁと思う事を聞いたりしていると徐々に会話がスムーズになった。
お互いの印象は良くみえたし、常連さんがいい感じにガヤを入れてくれたので、ずいぶんと長い時間お店で話してお互い好意を持っている感じだったので、多少おせっかいだとは思ったが「ラインの交換しといたら?」と促して解散した。
Rちゃんは走るのがめっちゃ速いので日本で女子のランナーの最高峰の大阪国際マラソンにでるそうだ。
ただ、仕事が忙しくて最近トレーニングがうまくできていないらしい。大会までS君にコーチしてもらう事になって近くの神崎川で一緒にジョギングする事になった。
しかし、自分とYさんとフィルターを通した上でお互い紹介するとほんの2,3ラリーでセッティングまでもっていける。自分で条件を設定してムダや猥雑な人間関係を省いて出会えるはずのマッチングアプリも案外遠回りしていて、外部からの偶然の要素が加わった方が早いのかもしれない。
多分この日記書いてる頃には一緒にジョギングしてる事だろう。お互い立派な大人なのでこれから先はどうなるかはわからないけれど、うまく行けばいいなーと思う。